2011-05-31
伐採体験
先日、5月22日(日)夢ハウス育成林にて、ものづくりの原点でもある恒例の伐採体験ツアーを開催しました。おかげさまで全国から300人を超える方々に集まっていただき、例年以上の一大イベントとなりました。
木を伐り・住宅として生命(いのち)を引き継ぐ瞬間の感動をお客様と共有したい・・・。
木の家に、そして夢ハウスの住宅に更なる愛着をもってもらいたい・・・。
そんな思いで10年程前にはじめたこの伐採体験。
130年の巨木を間近に見る伐木(ばつぼく)は、それだけで感動的ですが、私はさらに実感していただくために"ある作業"をお客様にお手伝い頂いています。
それは『矢(や)打ち』という作業。
そもそも木を伐る順序はこうです。
はじめに、倒したい方向へ『受け口』という欠き込みを入れます。
次に反対側から『追い口』という切り込みを入れますが、この時点ではまだ木は倒れません。
その追い口に"矢(や)"と呼ばれるクサビを何本か打込み、木の重心を徐々にずらして倒すのです。この"矢"を打つ作業を『矢打ち』と言います。
この作業を、私とプロの職人が立ち会いのもと、大勢の皆さんの前で手伝ってもらいます。
切り込みの入れ具合にもよりますが、この"矢打ち"という作業はかなりの重労働。
重たいハンマーで確実に"矢の芯"に命中させなくてはなりません。
しかし、これが素人には難しい。大抵の方は、数回ハンマーを振ると息を切らしてあきらめてしまいます。
私が300人のお客様に「やりたい人―!」と大声で問いかけると、意外にも女性の方が多く手を挙げました。
その中から10人ほど選抜し、順番に"矢"を叩きはじめます。
案の定、なかなか芯をとらえることができない人、ホンのわずかで後者にバトンタッチする人、ここまでは予想通りの展開です。
しかしハンマーを最後に握った女性に、私は驚きました。
何度振っても振っても、疲れる様子がありません。
しかも「まだ私が振っていてもいいんですか?」と余裕の表情。
その女性は、他の方と違い"腰"が座っていました。
彼女の想いはただ一つ、絶対にやり遂げるんだという想い、その目標です・・・
"矢打ち"は、つい力んでしまう作業ですが、彼女は全く無駄な力を入れることなく"矢の芯"を的確にとらえていました。
「コーン、コーン。」と気持ちいい音が静寂な育成林に響き渡り、それと同時に"矢"がグッと幹に吸い込まれていきます。見ているこちらまで気持ち良いくらいに・・・。
何度叩いたか忘れてしまうほどのころ、
あきらめずに打ち続ける女性の姿に、いつしか大勢の観衆から
「がんばれー!」
「だいぶ傾いてきたぞー!」
「もう少し!」
と応援の声が飛び交いはじめたのです。
次の瞬間、「ギィィィィー。」というどこか寂しげな音と共に130年の歴史を持つ巨木が、まるでスローモーションのように倒れはじめました。
放心状態で唖然と立ちすくむ彼女に私は
「危ないから、下がりなさい!」
と腕を掴み引き寄せました。
ドーン!と地面にその振動が伝わるなか、見事に三十数mある巨木は"一つの役目"を終えたのです。
伐木直後、彼女に感想を聞きました。
倒れていく瞬間、頭が真っ白になり動くことができなかったそうです。
ハンマーをもつその手は、しばらく経ったあとでもまだ震えていました。
「男でも大変なのに、よく最後まで頑張りましたね。」
そう私が声をかけると、我に返ったようで
興奮しながらも私に何度も礼を言い、華奢な両手で握手を求めてきました。
彼女は、今回『一生に一度とない感動』を経験することができたでしょう。また、「生命の大切さ」や「先代の恩恵」を実感してくれたと思います。
小さな国土の日本は、木が勝手に芽を出し何十年、何百年と育つのではありません。誰かが苗を植え、丹精こめて育んできたのです。
その「先代の思い」と「尊い生命」に感謝し"二つ目の役目"を担うのが、私たち『つくり手』と皆さん『住まい手』なのです。そのことをこの伐採体験で学び、いつまでも覚えていて欲しいと思います。
エコや地球環境も大事ですが、まずは"一本の木"から学ぶべきことは多々あります。
木の家に住むことは
木を知るということ。
自然を知るということ。
さすれば自ずと快適な住まいに辿り着くのです。
伐採のあとは、スタッフが腕によりをかけた食事でお腹いっぱいになっていただき、お楽しみのクイズ大会・ジャンケン大会で盛り上がり、夢ハウス育成林をあとにしました。
今回のイベントもすべての方々にご満足いただけたのではないでしょうか。
ひとまず事故やケガもなく、無事終了したことが何よりです。
遠方からお越しいただきました県外の皆様、地元新潟からご参加いただきました皆様には心より感謝申し上げます。
また、次のイベントでお会いできることを楽しみにしています。
家路につき、ふと我が家を見上げ決意します。
「植えた人、育ててくれた人、自然そのすべてに感謝します。
携わった皆の想いに報いる為にも、住み継がれる住宅にします。」